「小さい魚」の中小企業が生き残るブルーオーシャン戦略

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中小企業診断士の坂井です。今回は非常に分かりやすく、キャッチーな英雄譚になりやすいために誤解されることもある、ブルーオーシャン(青い海)戦略とレッドオーシャン(赤い海)戦略について解説します。

また、現時点ではブルーオーシャン戦略を推進するとも、レッドオーシャン戦略を採るとも決めていない(消極的にはほとんどの場合レッドオーシャンとなりますが)中小企業が、コーポレートサイトなどインターネットを生かして戦略を決定するための情報を得る方法について模索します。

ブルーオーシャンとレッドオーシャン

ブルーオーシャン戦略

ブルー・オーシャン戦略とは、W・チャン・キムとレネ・モボルニュの著作によって提唱された経営戦略で、サメのような捕食者がうようよいて、海が赤く染まっているような環境(レッドオーシャン)から、外敵、競合のいない環境でビジネスを行うことで事業が上手く行く、という考え方です。

Wikipedia: ブルーオーシャン戦略

マイケル・ポーターと違い、ブルーオーシャン戦略を提唱した両氏によると、「(機能の追加による)付加価値の向上」と「ムダを省く低コスト化」を同時に実現できるとしています。顧客への価値を分かりやすく数式で表現できるバリューエンジニアリングで言えば、

Value(顧客価値)↑↑ = Function(機能)↑ / Cost(コスト・費用)↓

となり、分母が小さくなって分子が大きくなることで、顧客にとっての価値が大幅に向上することを狙います。これは言うのは簡単ですが現実は難しい面があります。

例えば、配車サービスのUber(日本では規制のため、UberEatsの方が有名ですが)やAirBnBなどはスマートフォンによる手軽さという付加価値と、低コスト化を両立した戦略でありブルーオーシャン戦略の典型例と言えます。いずれも競合のいない、誰も想像もしなかった価値を創造しています。

このように、本来のブルーオーシャン戦略というのは価値の最大化だけではなく、同時に市場も創造するイノベーションを起こすような戦略です。そのため、既に存在している企業というよりはスタートアップ向けの戦略と言えます。もちろん、新規事業や新製品でこのようなブルーオーシャン戦略が成立する例もあります。

例えば、任天堂はファミリーコンピューター、そしてWii, 2023年現在の最新ハードウェアのSwitch などでこのブルーオーシャン戦略を成功させてきた企業です。また、SONYもウォークマンという新しいハードウェアで新市場を創造することに成功しました。両社とも、関連するソフトウェア(ゲームや音楽)にも事業が開拓されていった点に共通点があります。

しかしながら、既に事業を持っていて更にブルーオーシャン戦略を成功させるには調査、研究に資源を振り分けられるだけの企業体力が必要なことも事実です。

そのため、中小企業がブルーオーシャン戦略を実行すると表現する場合は、市場を細分化(セグメンテーション)し、特定分野で市場の支配を狙う、ニッチ戦略である場合がほとんどかと思います。本稿でも、ブルーオーシャン戦略も扱いますが、レッドオーシャンと比較して「青い」という意味で、ニッチ戦略もあわせて考えます(厳密な経済学を扱うのではなく、実務での有用度を考慮してです。ご了承ください)。

レッドオーシャン戦略

レッドオーシャン戦略とは、ブルーオーシャンとは逆に、サメのような凶暴な捕食者が市場を支配していて、環境が血で赤く染まっている……というような状況です。そんな状況ではどんなビジネスを実施しても上手くいかないように思えてしまいます。しかし、現実には多くの中小企業がこのレッドオーシャン環境で事業を行っていますし、レッドオーシャンならではの利点も存在しています。

レッドオーシャンならではの利点

需要が確実に存在している

競争環境がすでに存在している、つまり競争が発生しているということは、既に奪い合うべき顧客が存在しているということです。どれだけ革新的な製品――例えば木星の大気を飛行できる自家用ジェット――を開発、発売したところで顧客がいなければ売れません。魚のいない海に釣り針を垂らしたところで釣れないのです。一方で、どれだけ捕食者がいる海で、針に餌がついていなくても、魚がいる限り針に偶然魚が引っかかる可能性はゼロではありません。

その意味で、調査するまでもなく市場が存在していると分かるレッドオーシャンは、安心できるビジネス環境でもあります。

市場の成長を分担(または他の人が実行)できる

市場にも成長期や衰退期といった、ライフサイクルがあります。ライフタイムの非常に短い市場もありますが、食品産業や外食産業、日用品産業などのように経済社会が続く限りおよそ消えないだろう大きな市場もあります。

こういった大きなくくりの市場や、既に誰かがセグメンテーションした市場(外食産業の中の、ファストフードなど)では競争と同時に市場を成長させるための投資が盛んに行われる局面があります。特に、新しい市場ができたときなどは、新規参入者も多く、ブルーオーシャンを切り開いた企業はもちろん、後から参入した巨大企業などもマーケティングを行い、消費者の注意を惹きます。

そうすると、競争環境はレッドオーシャンになりますが、一方で新しい顧客も市場に入ってくることになり、市場のパイ全体が大きくなります(ならなければその市場のライフタイムは短いでしょう)。そのようなマーケティング環境は、自社で実施するにしろマーケティング会社に依頼するにしろ、大きな労力・コストがかかります。しかし最初からレッドオーシャンであれば市場の拡大にどの程度の投資がなされているかは厳密な調査をしなくてもある程度は把握可能です。e-statなどの政府統計も有効でしょう。

そのような理由から、競争環境があり大きく成功するのが難しくても、一方である程度生存できる可能性が高いと言えます。

ニッチ戦略に発展できる

ニッチ戦略は、既にある市場の中から、既存の企業ではカバーされきっていないセグメントにターゲットを絞って、その分野での勝利を狙う戦略です。分かりやすい日本の企業で言うと、モスバーガーなどが挙げられると思います。安くて早いが基本のファストフードで、早くて高い(が、高品質)というセグメントを切り出して独自の路線を切り出しています。

ただこのニッチ戦略は、厳密にブルーオーシャン戦略と区別することは、実は難しいです。例えば、先ほどウォークマンを例に挙げましたが、この製品は「ラジカセを持って歩く人がいる」という点に着目して作られたと言われています。この視点でみると、民生用音楽再生機器市場のニッチ戦略です。任天堂のWiiも、グラフィックなどの高スペック製品争いからブルーオーシャンを開拓したと言われることもありますが、家庭用ゲーム機自体が、コンピューターを低スペック化したニッチ戦略であると分析することも可能でしょう。

つまり、その後市場がどれだけ大きくなったかによって、ニッチだブルーオーシャンだと言われているに過ぎないという見方も可能です。

少し話がそれましたが、小さいながら独自の強みを有している企業は、このニッチ戦略が有効とされる場合が多いです。自分たちの強みにあった顧客を探し、そこに集中的にマーケティング・営業を仕掛けることで限られた経営資源を有効に活用できます。

中小企業がニッチ・ブルーオーシャン戦略でウェブサイトを活用する方法

基本的な戦略を確認したところで、ではコーポレートサイト、企業ホームページをいかに活用すべきか? について考えたいと思います。この方法には、大きく分けて、2パターンが考えられます。

ターゲットセグメントに向けてメッセージを発信する

こちらは非常に分かりやすい戦略です。自分たちが得意とする領域に向けて、メッセージを発信します。例えば、早くて美味い(が高い)牛丼を提供するお弁当を提供している企業であれば、多少高くてもいいものを食べたい層や、急な来客に対応しなければいけない人などにターゲットを絞ったウェブサイトを構築するといいでしょう。

このような場合は、ウェブサイト自体も、高級感とシズル感があって美味しそう、しかし早そうな(恐らく、最新のテクノロジーなどを利用するでしょうから、ウェブサイトのレイアウトもテック企業のような大胆なものを使うといいでしょう)印象を与えるデザインがあっているでしょう。専門家に依頼する場合も、強みやメッセージ性がはっきりしていて、非常に依頼しやすく、失敗の少ないパターンです。

しかし、実際にはこのパターンの方が稀でしょう。外から見たらはっきりと強み弱みが分かっていても、自分たちのこととなるとなかなか分からないのが実情です。また、セグメントを切り分ける方がいいと分かっていても、まだ見ぬ見込客を切り捨ててしまうような気がして踏ん切りがつかないという場合もあるでしょう。

こういうときには、コーポレートサイトを作る前に、企業診断を中小企業診断士などに依頼するというのが分かりやすい解決策です。作ってしまうと、リニューアルにも費用とコストがかかりますし、「作ったばっかりなのにダメだよね」というのは、言う側も言われる側も嫌なものです。

まだホームページを作っていなかったり、そろそろリニューアルを考えている場合には、是非、専門家に相談することを検討してみてください。

まだ見ぬ需要を調査する

もう一つ、ホームページならではの使い方があります。それは、ターゲットもセグメントも絞らずに、とにかく世の中に情報を発信し、反応を見ることです。

今ではオフィスにも勉強にも、それから企業診断にもなくてはならないポストイットですが、この「何にでもくっついて、すぐ剥がせる」という特徴は、強力な接着剤を作ろうとしている過程で発見され、最初は全く使い道が見付からなかった……というのは有名な話です。

中小企業においても、「できるし何か凄いけど、それが何の役に立つか分からない」ということは外部から専門家を招いてみても、残念ながらあるものです(皆さんはどうでしょうか、木星を飛行出来るジェット機に、現在使い道を見いだせるでしょうか)。

町工場の熟練工が遊びや練習に作ったものや、偶然網にかかった深海魚など、「今の所経済的な価値はないけれど、面白い」というのはインターネットと非常に相性がいいです。面白さと物珍しさにより認知が広まり、そのようなものの活用方法が見付かる場合もあります。

また、ただ単に普通に業務をしているだけで思わぬ問い合わせが舞い込んでくる場合もあります(深海に仕掛ける網に、調査用のセンサーをつけさせてもらえないか、という依頼がくるかもしれません)。

このような「面白いこと」からつながるビジネスや、まったく認知していなかった見込客からの問い合わせにより、市場を初めて認識出来るということもあります。AirBnBも、泊まれない人がいるらしいという話を聞いたことからスタートしており、全くの無からスタートしたビジネスではありません。そのようなふとした状態からスタートするブルーオーシャン戦略・ニッチ戦略もあります。

そのような新戦略につながる未知と遭遇するためにもホームページは有効です。このような目的で、広く会社を紹介するページの場合には、特に更新がしやすいことが求められます。また、問い合わせしやすいように、問い合わせフォームなどの設置も必須です。

筆者は、このように中小企業向けに更新しやすいホームページづくりには、WordPressをお勧めしています。デザインなどが自由、低価格で運用でき、問い合わせフォームなども設置できるため、中小企業にとっては必要十分です。

詳しくは、以前の記事に記載しているのでそちらも御覧下さい。

中小企業診断士が企業サイトにWordPressをお勧めする5つの理由

まとめ

  • ブルーオーシャン戦略とレッドオーシャン戦略では、ブルーオーシャン戦略が素晴らしいと言われることが多いが、実は既に存在している中小企業には難しいことが多い
  • レッドオーシャン戦略も、競争環境は厳しいが事業を行う上では利点も存在している
  • ニッチ戦略とブルーオーシャン戦略の区分けは難しい
  • 自分たちの戦略が明確であればホームページは作りやすいが、難しい場合もある
  • 事前に戦略を策定したい場合は、中小企業診断士などの専門家に依頼するのも一つの手段
  • 特に明確な戦略を策定せずに、情報収集と発信を目的したコーポレートサイトも、新戦略につながる情報を得られる場合がある

カバー画像:UnsplashShifaaz shamoonが撮影した写真

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