中小企業診断士の坂井です。今回は、チェックリストについて考えてみます。
皆さんは日頃、チェックリストを使っていらっしゃるでしょうか? 経営者の方の中には、「現場には使わせているけど、自分は使っていないよ」とか、「そんな小学生みたいなことしないよ」とか考える方もいるかもしれません。一方で、「もっといろんな活用方法があるのか?」と期待してこの記事を開いた方もいらっしゃるかもしれません。
どちらの考え方も、非常によく分かります。というのも、確かにチェックリストは小学生、あるいは幼稚園くらいから使い始めることのできる、とてもシンプルな仕組みだからです。文字が読めなくても、小さなイラストにチェックを付けるという行為は直感的であり、極論、自分で動かせさえすれば、ペンがなくても指だけでもできます。一方で、A4用紙10枚を超えるような同意文書の末尾に「同意する」の隣にチェック欄があったりします。
また、この文書を読んでいる方は、邪魔さえ入らなければ1万でも10万でも数を数え上げられると思います。しかし、実際には「正」の字を書いたりしながらカウントするのではないでしょうか。この正の字1画1画も、棒1本のチェックと考えることもできます。
これらの例は、チェックを「意志を確認する」用途に使用したり、「記録を実施する」用途に使用したり、という事例です。チェックリストはこれらのチェックをさらにリストとして複数組み合わせたものになります。
つまり、チェックリストとは非常に応用範囲の広い「チェック」という機能をまとめたものとなります。ここでは、そんなチェックとチェックリストの応用範囲、特に経営やビジネスで有効な使い方を考えていきたいと思います。
このページの目次
チェックリストの使い方
品質管理
業務で使うチェックリストと言えば、製造現場で主に行われる品質管理におけるチェックリストを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
- 大きさや重量が基準値内であるか?
- 傷などのエラーがないか?
- ロット内の不良率が一定範囲内であるか、あるいは抜き取り検査で合格したか?
- 加工に使用されているデータがあっているか?
- 次工程に回す部品が全て揃っているか?
など、チェックリストを用いることで、品質管理を実施できます。
この品質管理を行う上で重要な点は(他のチェックリストでも同様ですが)抜け・漏れを発生させないことです。多少の重複があっても構いませんが、余りにも重複項目が多いと、チェックを実施することに疑いをもたれ、有形無実化してしまう恐れがあります。
大規模なラインを持つ製造業では当たり前に取り入れられている品質管理のチェックリストですが、セル型(グループ別)レイアウトのように製品の完成までが1人~少人数で担当されるような業種の場合、驚くほどこのような管理が行われていない場合があります。いわゆる、昔ながらの職人芸に頼った製造の現場では、職人自身が「何をチェックしているのか?」を問われるまで言語化しないケースもあるため、経営者や中小企業診断士から正式にチェックリストの制作を依頼する場合もあります。
大量生産品の場合、1つ1つが基準項目を満たしているかをチェックする代わりに、目視でチェックを行いエラーがあった場合に生産品をラインから避けながら(ポカヨケ)、理由をチェックシートにチェックするパターンもあります。
このパターンは製造誤差などでどうしても発生する不良品を避ける目的もありますが、機械や製造ラインに異常が発生していないか調べる、または統計的に集計して意味のあるデータを見いだす場合にも使われます。例としては、ある日、突然バリが多いというエラーが増えたら、切断工程に異常があると見るべきでしょう。より深く統計的・機械学習で分析した場合、バリがある程度増加し始めた場合には、原料精製の機械のメンテナンス時期が来ていると分かるかもしれません。
また、製造以外の現場でも「品質」に影響する部分にチェックリストを導入する価値があります。昨今、取り組んでいる企業の多いECでは、購入品の入れ忘れ防止はもちろんのこと、「お礼の手紙」「アンケート」「クーポン」「チラシ」「商品の固定方法」など、チェックリストを導入した方がミスが防止できます。特に、期間限定の「おまけ」などの販促品は、サービスであるため、トラブルになりやすく、運送費などのコストも発生するため、注意が必要です。
IT化が進展し、PCやタブレット上で作業が完結する業務ではそもそも不備がある場合は次の作業に進めないフールプルーフが実装されているケースが多いです。また、電子メールでは「添付します」という文言が入っているのに添付ファイルがついていないと確認のメッセージがでるシステムもあります。
しかし、自社の業務全てに対応したものではないため、例えば「見積書のダウンロードURL」や「請求された資料すべてのURL」、「新商品のご案内の文章」などをメールの文面に入れ忘れてしまう場合があります。もちろん、見積書や請求書を作成時に、入れるべき金額を入れない・約束した割引きを実施しない……などというミスも起こりえます。
それらの防止のためにも、チェックリストは事業の様々な範囲で応用できる・応用を考えるべきツールです。
安全管理
安全管理も、品質管理と同じく、製造現場で広く用いられるチェックリストの使用方法です。
- マテリアルは正しく設置されているか?
- 加工器具は正しく設置されているか?
- 冷却水は基準量投入されているか?
- 安全カバーは取り付けられているか?
- 工作機械の内部に人はいないか?
- 機械にひび割れなどは発生していないか?
- 針は製品に残っていないか?
などなど。新しい機器であれば、センサー技術の発展により、IoT化までされていなくてもフールプルーフが発動し機械が動作しない措置がとられている場合があります。ただし、これらの検知が動かない場合もありますので、人間がチェックリストを使う重要性は残っています。
発生してはならないことですが、何か安全衛生上のトラブルが発生した場合にチェックリストが残っていれば、事故原因を究明する手助けにもなりますので非常に重要です。
ただし、旅客車の運転のように発車の度にチェックリストに全てをチェックできない場合もあります。製造業においても、ライン稼働開始/停止時のようにチェックリストに毎回記載できる場合もありますが、1日に何度もマテリアルを入れ換え、稼動するテーブル機械などでは現実的には実施できない場合もあるでしょう。このような場合には、指さし確認を実施するといいでしょう。
指さし確認では、
- 対象物をしっかり視認
- 対象物を指さす
- 対象物の名前を呼称
- いったん、指を上に向けるなどして対象から外しながら、再確認
- 再度指さしながら「よし」などと声を出す
という手順をとります。自動車免許の講習などでも習いますね。筆者は、小型船舶免許を持っていますが、船舶免許では陸上よりもエンジントラブルなどのリスクが高いため(ただ止まるだけでも漂流になる)、より丁寧に実施します。
出来れば、「所定の指さし確認を実施した」というチェックだけでも、実施するとなおいいでしょう。
ダブルチェックのやり方
品質、安全管理では可能な限りミスを避ける(不良や事故はゼロが目標)ためにダブルチェックを実施することが多くあります。しかし、ダブルチェック制度を導入したにも関わらず、ダブルチェック導入前と比べてエラーや事故が減少しない、下手をすると増加してしまう、といった現象が発生する場合があります。
これには、様々な心理的、労働環境的原因が考えられていますが、基本的には「同じチェックを複数回繰り返している」ことが多いです。同じ人ではなく、例えば上長や同僚が同じチェックリストを用いて同じチェックを実施している場合などです。
しかし、これは「1回チェックを通り抜けた」ものをチェックしますので、当然エラー・事故率は1回目のチェックよりも低くなります。そうすると、どうしても「チェックされているんだから大丈夫だろう」という意識が発生し、チェックが甘くなってしまいます。ミスが多い作業員のダブルチェックが、最初は効果が高いのも、最初は疑ってかかりますし、そもそもエラー率が高いのですから、当然です。しかし、ダブルチェックによりエラー修正の指導が進むにつれミスが減り、結局ダブルチェックの有効性が低下してしまいます。
心理学的には、リンゲルマン効果と呼ばれる現象もあり、こちらは「自身の関与する度合いが低下」すると手を抜いてしまうという効果になります。「もう一人がチェックしているし、しかも自分のところに回ってくるものはエラーがすくない」となると、よりチェックの効果が下がります。
また、ダブルチェックにより単純に業務負担が増加するという効果も見逃せません。チェックはしっかりやらないと効果がないですからね。
では、どのようにチェックすればいいのでしょうか? 更に人を増やすのでしょうか? しかし、ザルを重ねても水は漏れます。
有効とされる手法は2種類あります。
1つは、チェックする項目を変える方法です。製品の入れ間違えであれば、「製品名」をチェックする人と、「商品コード」をチェックする人に分けるという方法ですね。これなら、似た製品名を見間違えても、商品コードが異なれば用意に発見できます。タブレット端末などがあれば、「写真」と比較するのも有効でしょう。
しかし、このチェックは、「異なる特徴」を持つ業務でしか実施できません。安全性チェックや不良チェックでは、どうしても同一項目になってしまう場合があるでしょう(「人が中にいない」を目視で行う人と、声かけで行う人に分ける、といった方法は考えられますが、冷却水が規定量かどうかは、貯水メモリでしか把握できない場合は多いでしょう)。
このようなケースでは「チェックの態度・方法をチェック」するという手法が有効です。2人同時に行う必要があるため、特に安全性が求められる場合にしかできない……という場合もあるでしょうが、先に述べた指さし確認などの手順を正しく実行しているか確認することで、チェックが動作しているか確認するものです。なかなかコストの高い方法ですが、IoT機器の発達により、この方法のチェックで遠隔で実施することもできるようになりましたし、チェック開始時にだけカメラを起動するだけでも心理的な効果は期待できます(常に詳細な作業の様子を監視するのは、色々な理由でお勧めできませんが)。
また、AIにより熟練工でしか分からない不良を学習できるようになり、機械と人間でのダブルチェックもやりやすくなりました。また、チェックする動作が正当かどうかについても、AIカメラにより分析できる場合があります。ただし、AIも人間も100%ではないため、お互いの特性を利用した効果的なダブルチェック体制が求められます。
進捗の管理
品質管理、安全管理も「やるべきこと」の管理ではありますが、こちらは物事がどこまで進展したか? をチェックするリストになります。言い方を変えると、達成度の管理方法になります。
具体的には、GTDや買い物リストに代表される「やることリスト」です。本記事冒頭に例示した「数を数える時の正の字」も進捗・やることの管理と言えますね(もちろん、見方を変えれば数を数えるという行為の品質管理や数を間違えた場合危険であれば安全管理となるでしょう)。
しかし、敢えて進捗管理とした場合には他とは違う2つの機能を有することが出来ます。それが、
- KPIなどの業績指標として使用可能
- これからやることの「設計図」として使用可能
という点です。順に見ていきましょう。
業績指標としての使用方法
業績指標とした場合、一定の「目標値」を設定して「達成」「未達成」とすることができます。安全管理や品質管理では、基本的には全てが達成されていなければ「異常」として扱うわけですから、一つでもチェックがはずれていたらそれは放置できません。
しかし、KPIやそれを達成するアクションプランとして設定していた場合は、達成した上で先を目指す、実行してみたところ、現実的に達成不可能であるということが分かる場合もあります。その場合には、PDCAサイクルの中で、目標値の調整が必要になります。
特にKPIを達成するためのアクションプランの場合、具体的な行動を思いついても数値化できない場合があります。例えば、「どんなに忙しくても毎日WordPressにログインしてダッシュボードを開く」というのは数値目標ではなく定性的に「行動したかどうか」です。店舗を運営されている方であれば、「朝1番に棚を整理する」「昼の時間に整理する」などと時間ごとの目標を管理し、その達成回数を期間内で集計することができます。
業務・タスクの設計図としての使用
業績指標としての使用方法は、ある意味では定常業務(期間の定めがなく、繰り返し実行される業務)のタスク予約といった側面がありました。
一方でこちらは、特に有期性のある(終わり、がある)プロジェクトなどで用いる方法です。例えば、「引っ越しを実施する」となった場合、「引っ越しの期日までにやらなければいけないことが多くて、何から手をつけていいか分からなくなってしまった」という経験がある方も多いのではないでしょうか? あるいは、試験前に勉強がしたくなくて片付けを始めてしまった経験というのもあるでしょう。
心理学的には、セルフハンドキャッピングなど様々な要因が関係しているだろうこの行為ですが、仕事でずるずる先延ばしにしてしまって品質が落ちる行為というのは避けなければなりません。そこで、まずは「やるべきこと」を書き出して脳を整理することです。短時間で済むプロジェクトであれば、タスクリストを作ることによる作業興奮(10分ルール)でそのまま「えいや」と片付けられてる場合もあるかもしれません。
多数のステークホルダーが存在するプロジェクト業務ではさすがに作業興奮だけで片付けてしまうことはできませんが、プロジェクト憲章などにステークホルダーやコミュニケーション計画の概要、マイルストーン(大まかなスケジュールの区切り)を作成するだけで、ぐっと見通しがよくなり、必要なリソースを割り当て、請求しやすくなります。
PMPなどの「標準規則」に基づいたプロジェクトマネジメントまでしないでも、複数人である程度の期間、何かを成し遂げようとするのはプロジェクトです(小学校の遠足や夏休みの自由研究もプロジェクトでしょう)。その場合は、大まかでもいいので「やること・タスク」をリスト化して整理していくと、チェックリストとして使えるだけでなく、頭の整理になりますので是非活用してほしいやり方です。
特に大まかなタスク(例:営業部全員と話す)を作成しておくと、実際に行うべき細かなタスク(例:営業部Aさんとのミーティングをセッティングする、実際にミーティングする)をサブタスクとして設計しやすくなります。さらに、サブタスクを細かくしたり、全て実行可能なサイズのタスクまで分割された後であれば、「下位タスクが完了したら上位タスクも完了とする」ことで、抜け漏れがなくなり、管理がしやすくなります。
このようにチェックリストは大きな仕事の「とっかかり」としても使用できますので、困ったらリストに書き出してみてチェックリストにしてみるというのは有効な手段です。
まとめ
今回はチェックリストについて考えてみました。チェックリストは幼稚園や小学校から使い、生産現場ではQC7つ道具として古くから使われている基本中の基本です。一方で、基本過ぎて使わない・効果を疑われてしまうこともある方法です。
本文中でも触れた通り、チェックリストに記録された不良の内容は統計的な分析対象とすることで、職人のカン(属人的な暗黙知)に頼りがちな機械のメンテナンスタイミングをルール化することで品質を安定させる役に立ったり、一方で経営層など、事業における「上流」の方々がこれから取り組むべきプロジェクトを最初に整理するとっかかりにもなり得る、非常に応用範囲の広いソリューションです。
「なんか、仕事が安定しない」「やりづらい……」と感じる際には、ITを導入した自動化・省力化ももちろん有効ですが、こういったアナログでもできる基本的な方法が手軽で劇的な効果を上げる場合もあります。ぜひ一度、試してみて下さい。
カバー画像:UnsplashのThomas Bormansが撮影した写真