経営分析の基本、SWOT分析と企業サイトへの適用

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中小企業診断士の坂井です。今回は、私たちが企業診断をする際にかならずといってもいいほど実行する、企業診断のフレームワークである「SWOT分析」と、SWOT分析を実施した内容をいかに企業のホームページ、コーポレートサイトに生かしていくのかということを説明します。

ウェブサイトを作る場合に、もちろん、どのようなシステム、CMSを使うのか(あるいは使わないのか)、見た目を決定するデザインの品質や傾向・テイストを決定するために、誰に頼むのか、どのくらいの予算をかけるのかといった要素は言うまでもなく重要です。しかし、もっと重要なのは「何を伝えるのか」ということです。

そして、伝えるための内容がウェブページのコンテンツなのですが、いざ、ウェブページを作ってみようと考えると何を書いていいか分からないということが、意外に多いものです。筆者も経営コンサルタントとしてではなく、ウェブページの制作者として商業向けのサイトを作ったことがありますが、「やっている商売はこんな感じだから」「業種はカフェだから」のように非常にアバウトな依頼が多く、難儀したことを覚えています(それでも、カフェであれば内装写真から色やデザインのエレメントを抜き出して作れるのでまだましなのですが……)。

ここでは、ウェブサイトの制作を依頼するにしても、社内で制作するにしても、コンテンツの「種」を見つけ出す役に立つSWOT分析のやり方と活用方法をご説明します。

※もちろん、製品やサービスページになると自社の立ち位置を考えるSTP分析に代表されるマーケティング的な思考も必要になります。あくまでも、「名刺」のようなコーポレートサイトの制作時とお考えください。

企業分析の基本、SWOT分析

SWOT分析は会社のような組織やプロジェクトの現状を評価し、戦略を策定するためのフレームワークです。戦略の策定時には、SWOTの各要素を組み合わせる、クロスSWOT分析に発展させることができるため、非常に使い勝手のいいフレームワークです。

SWOTとは、Strengths(強み), Weaknesses(弱み), Opportunities(機会), Threats(脅威)の頭文字を取ったもので、それぞれに該当する要素を列挙し、重要性や緊急性、対処の必要性などを考慮しながら現状を分析します。

  • Strengths(強み)
    • 独自の企業内部の競争優位や資産です。例えば、ブランドの認知度や特許技術、優れた人材などの無形資産や独自に開発された高い生産効率を誇る製造機械のような有形資産の場合もあります。なかなかありませんが、老舗の酒造メーカーの蔵つきの酵母などは他社が(合法的な方法では)真似できない、企業内部の強みと言えます。
      製造業以外でも、海外拠点(営業所、事業所)を有していたり、長年付き合いのある現地企業との人間関係、信頼関係なども強みとなりますので、「自社にとって当たり前」なことも改めて他社と比較すると、強みとして発見できる場合があります。
  • Weaknesses(弱み)
    • 特に競合している他社(他プロジェクト)と比較して、不足している部分や改善が必要な部分です。強みの裏返しと理解するのが一番分かりやすい例となります。個人だと他人と比較して悪いところばかり気にしてしまうのはいい傾向とは言えませんが、組織の場合は正しい認識として冷静に分析することが重要となります。自分の会社を我が子のように(時には我が子よりも)大事に思っている経営者には辛い作業ですが、踏ん張りましょう。
      また、筆者個人の感覚ですが、強みではなかなか「他社と比較して流動資産が多く予算が豊富」とは挙げられませんが、弱みとしては「企業規模が小さく、予算がない」と挙げられやすい点も注目に値します。
  • Opportunities(機会)
    • ビジネスチャンスとなり得る世の中の動きや、今後取り組むべき発見された新市場やニーズのことです。強みとの違いは自社の環境外にあり、基本的にはコントロール不可能な点です。また外部環境であるため、競合他社にとっても(認識されていれば)同様に機会としてとらえられます。
      特に中小企業にとっては政府の方針、政策とそれに伴う補助金や規制、税金などが直接予算にも影響してくるので重要になります。さらに、専門的な分析を行わなくても政策に乗っかっておけば時流に乗れるという面もあるので、各種白書や補助金情報には注目しておくといいでしょう(もちろん、診断士に相談していただいても構いません)。
      また、ピンチはチャンス、の言葉通り、一つの事象が機会にも脅威にもなり得るというのも特徴です。2023年現在では、環境規制や円安などが分かりやすい例となります。
  • Threats(脅威)
    • 自社にとってマイナスとなる外部からのリスクや障害です。機会の反対と捉えると分かりやすいでしょう。先述の通り、同じ現象でも見方に応じて脅威とも機会ともなり得る場合があります。
      一方で外部から調達するしかない原材料(レアアースや燃料などは外部からの調達以外の手段はないでしょう)の高騰などのように、どうあっても脅威としかなり得ない現象も存在します。また、新規参入者や競合の攻勢の強化なども、避けづらい脅威となります。

SWOT分析の各要素は以上のようになり、更に2タイプのグループの分け方があります。

  • 内部環境と外部環境
    • 内部環境:強み、弱み
    • 外部環境:機会、脅威
  • プラス要因とマイナス要因
    • プラス要因:強み、機会
    • マイナス要因:弱み、脅威

SWOT分析を実施する際には、基本的には外部環境から実施した方がいいとされます。理由はいくつかありますが、強みや弱みという内部環境についても、結局のところ競合との比較でしか語れない、客観性のない主観では信頼性に欠けるからということが挙げられます。

が、中小企業のコーポレートサイトの制作段階ではそこまで厳密に考える必要はないと考えます。何故かというと、人材を採用する場合を考えてみると分かります。世の中全体を相対的に能力を評価した場合、残念ながら最高の能力を持った人材、あるいは最適な人材というのは残念ながら採用が難しいです。居住地などの制約もあります。そこで、一定期間内の応募者やある程度の妥協の範囲内で選択します。しかし、採用側が妥協したとしても、応募者は自身の強み、アピールポイントを訴求してきます。

それと同様に、コーポレートサイトは企業にとっての履歴書や職務経歴書のようなものです。敢えて冷静に「自分は業界全体で見ると劣っていますが、それでも品質にこだわってベストを尽くしています」などと評価しても見込客の歓心は買えないでしょう(B2Cであれば、誠実さを感じるかもしれませんが……)。そこでは「品質に自信あり」とシンプルに言い切っていいでしょう。

もしそれでも他のフレームワークや方法論と組み合わせなければ心配だ、というのであれば、まずは会社のメンバーとのブレインストーミングをお勧めします。ブレインストーミングは、お互いのアイデアを否定せず、どんどん思いついたことを言っていく手法です。複数人で同時に行う場合は、否定しないことはもちろん、前の発言を発展させる手法がお勧めです。

例えば、強みとして「品質」を挙げた人がいた場合、それが呼び水となって「特に外観の滑らかさにこだわっている」と製造担当者が言ってみたり、「持ちやすい形状にこだわりがある」と設計担当者が述べてみたり、といったことです。

このようにブレインストーミングでアイデアを発展させてSWOT分析を行うと、専門的な分析手法に精通していなくても、マーケティングの基本であるSTP分析を実施したような、セグメント、ターゲットを絞り込んだ現在のポジショニングが見えてきて、適切なメッセージを発信し、集客の手助けとなる場合があります。

SWOT分析の例:とある地方のカフェの場合

仮に、ある地域で営業するカフェのSWOT分析を考えます。

強み – Strengths

  • オーガニックコーヒー豆の使用
  • 都市部で修行を積んだ経験豊富なバリスタの採用(オーナー自身かもしれません!)
  • 落ち着いた店内

弱み – Weaknesses

  • 個人店で知名度が(まだ)低い
  • 初期投資に費用がかさんでおり、有利子負債が多い
  • 営業時間が短い

機会 – Oppotunities

  • 近隣の大学のキャンパスに学部が新設され若者人口が増加
  • 地元商店街のイベント
  • Uber eatsなどの宅配サービスの台頭

脅威 – Threats

  • 大手チェーンカフェの進出(特に大学の最寄り駅は今後も進出が予想されるでしょう)
  • 原材料の高騰、円安のリスク
  • フェアトレードの圧力

個人営業の喫茶店であれば、恐らく無理をしなくても(無理をしなければ)、有利子負債の返済に資金を回し、キャッシュフローを改善していけば繁盛店にならなくても安定した経営はできるでしょう。戦略としては、大手チェーンのカフェが低単価で客席回転数を重視した経営スタイルであれば(都市部でも地方でも同様の価格、サービスを提供するチェーンではそうなりがちです)、回転率を下げる代わりにFL比率を低下(改善)するといった方法が考えられるでしょう。

それを踏まえて、SWOT分析をした結果を、どのようにウェブサイトのコンテンツに落とし込むか考えてみます。

SWOT分析の結果を、カフェのウェブサイトに落とし込む

強み – Strengths

メニューページおよびトップページ:オーガニックコーヒー豆の使用と特徴、バリスタが淹れるコーヒーのおいしさを掲載。客観的な味の指標(味のバランスのレーダーチャート)などを掲載するとより効果的ですが、初めてのウェブサイトでは難しいでしょうから、最初はこだわりをアピールするくらいでも充分です。

店舗紹介のページ:家具や店内照明に関するこだわり、方針をテキスト化して掲載。もちろん、それにあわせた写真も掲載します。2023年現在では、写真だけではなく動画コンテンツやSNSへの動線もあるといいでしょう。将来的には、VRコンテンツなども必要になってくるかもしれません。

弱み – Weaknesses

弱みを積極的に開示する必要はありませんが、知名度の獲得のために、ブログ記事や新メニュー、季節メニューなどの更新をおすすめします。ブログに書くコンテンツがないというのがよくある悩みですが、筆者はよく「毎日の天気の写真を載せるだけでもいい」とアドバイスしています。インスタグラムやX(Twitter)などのSNSについても同様ですが、毎日変化があるもので誰にでも影響のある共通の話題は、定期的な更新に向いています。

機会 – Oppotunities

同じく、ニュースやブログなどの動的に更新できるコンテンツをお勧めします。機会を活用することを考えた場合、学生向けの割引きやスペシャルメニュー、お年を召した方にはちょっと厳しい量のメニューの紹介などが考えられます。

また、地域・商店街のイベントなどは店舗単体以外の注目度が上がりますので、是非掲載をしましょう。「イベントのページに紹介されるからいいよ」と考える方もいますが、イベントページで興味を持ち、企業ページにアクセスしたら「イベントで実際に何をするか、詳細が分からない……」「もっと詳しい情報を知りたかったのに」となってしまうとせっかくの機会を失ってしまうことにもなりかねません。必ず掲載します。

また、宅配サービスを行っている場合は、その点も訴求するといいでしょう。個別にページを作成するほどではありませんが、トップページやメニューページなどに掲載してあると宅配サービス経由の注文の獲得にもつながります。

脅威 – Threats

ウェブサイトにおいては脅威は「機会」に転換する努力が最も重要と言えます。大手チェーンカフェの台頭に関しては先に述べた通り、差別化の強調。また原材料費、燃料費の高騰についてはSDGsへの取り組みとして食品ロスや使用燃料の削減への取り組みをアピール。

もちろん、フェアトレードについてもフェアトレードの重要性と自社のコミットメント(積極的な関与の姿勢)を表現すると店舗への信頼感が高まります。

先般の感染症拡大の際には、実際に店舗に行く前に対策を調べる人が多かったこともあり、迅速な自社サイトへの取り組みの紹介が集客に影響した店舗も多かったです。変わらず脅威ではありますが、一方で迅速な対応を行えば他との差別化となり、競争優位につながる誰もがイメージしやすい分かりやすい例と言えるでしょう。

 

このように、SWOT分析を元にコンテンツを考えることで、制作者とコミュニケーションが取りやすくなり、ウェブサイトの方向性が明確になります。また、サイトマップ(この場合は、どのようなページがウェブサイトに含まれるかと、各ページのつながりを最初に俯瞰する目的で作る図)を考えてください、確認してくださいと言われたときにもチェックしやすくなります。

コーポレートサイトの更新のしやすさは大事

ニュースやブログといったキーワードがSWOT分析の例で頻出したように、最新の情報を閲覧者に提供することは非常に重要です。また、更新が余りにないと「本当にやっている会社なのか」と不安になる場合もあります。明確に検索エンジン側から発表があるわけではありませんが、ウェブサイト内のコンテンツの量や更新頻度が検索に影響するとも言われています。実際に運営していて確実なのは、頻繁に更新されるウェブサイトの方が、検索エンジンにインデックス(検索結果に含まれるように学習)される頻度は高くなります。

そのような理由から、SNSだけではなく、ウェブサイト自体も頻繁に更新できるような体制を構築することが重要です。

「とはいっても、ホームページのことなんて分からないし……」という方がほとんどだと思います。しかし、心配はいりません。現在では、CMS(Contents Management System – コンテンツ管理システム)というホームページを管理更新するソフトを導入することで、簡単に内容の更新や、ニュースの追加などが可能です。

筆者は、特別な理由がない限りは、WordPressというCMSを推奨しています。更新できるCMSは他にもありますが、総合的に判断して、お勧めしています。詳細については、下記の関連記事を参照してください。

関連記事:

中小企業診断士が企業サイトにWordPressをお勧めする5つの理由

まとめ

企業分析の基本、SWOT分析はウェブサイトの構築の際にも役に立ちます。また、単に制作会社に依頼するだけではなく、中小企業診断士のような経営の専門家もアドバイザーとして交えることで、企業にとって総合的にメリットのあるウェブサイトを構築可能です。

SWOT分析は、厳密に行う場合、4象限それぞれについて(あるいは内部環境・外部環境について)、更に専門的な分析のフレームワークを使う場合が多くあります。しかし、企業のホームページを最初に立ち上げる場合はそこまで難しく考えず、ブレーンストーミングでどんどんアイデアを出すことも有効です。また、ブレーンストーミングは、従業員も交えて実施することで企業内のコミュニケーションの活発化や、自社への理解も深まるという点でも、お勧めです。

以上になります。記事内容について、ご質問等、お気軽に問い合わせフォームからお寄せください。


カバー画像:Image by Gerd Altmann from Pixabay

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